第3話 介護保険の住宅改修費とは?20万円まで支給
そんなとき、介護保険を使って住宅改修費の支給を受けられる可能性があります。
介護保険の住宅改修は、一定の条件を満たせば、原則として20万円を上限とする工事費について、所得に応じて7~9割相当が支給される制度です。
ただし、ここで大切なのは、
「工事をしてから申請すればいい」という制度ではない
ということです。
原則として、工事を始める前に市区町村へ相談・申請する必要があります。
知らずに先に工事をしてしまうと、介護保険の対象にならない可能性があります。
今回は、年金生活者が知っておきたい「介護保険の住宅改修費」について、できるだけ分かりやすく整理します。
第1章 住宅改修は「ぜいたくなリフォーム」ではありません
年齢を重ねると、若いころには何とも思わなかった家の中の段差が、急に危険なものになることがあります。
例えば、
などです。
若いころなら何気なくまたげた段差でも、足腰の力が弱くなると、転倒の原因になります。
そして、高齢者にとって転倒は、単なる「ちょっとしたケガ」で終わらないことがあります。
骨折などをきっかけに、それまで一人でできていた生活が難しくなり、介護サービスが必要になることもあります。
だからこそ介護保険では、できるだけ住み慣れた自宅で生活を続けられるようにするため、一定の住宅改修を保険給付の対象にしています。
厚生労働省も、在宅介護を重視し、高齢者の自立を支援する観点から、手すりの設置や段差の解消などを介護保険の対象として位置づけています。
つまり住宅改修は、
「家をきれいにするためのリフォーム」ではなく、「介護が必要になっても自宅で生活を続けるための環境整備」
という考え方なのです。
第2章 介護保険の住宅改修費はいくらまで?
ここが一番気になるところでしょう。
介護保険の住宅改修には、支給限度基準額20万円があります。
これは、工事費20万円までがすべて無料になるという意味ではありません。
例えば、介護保険の自己負担割合が1割の人なら、
工事費20万円
↓
介護保険から18万円
↓
自己負担2万円
という考え方になります。
厚生労働省の資料では、住宅改修費の支給限度基準額は20万円で、原則9割が保険給付となり、所得に応じて8割・7割となる仕組みが示されています。
したがって、
自己負担1割の場合
20万円の工事
→ 支給18万円
→ 自己負担2万円
自己負担2割の場合
20万円の工事
→ 支給16万円
→ 自己負担4万円
自己負担3割の場合
20万円の工事
→ 支給14万円
→ 自己負担6万円
となります。
ただし、ここで注意したいのが「20万円」という数字です。
これは、
一回の工事につき20万円
という意味ではありません。
原則として、住宅改修に使える支給限度基準額は20万円です。
その範囲内であれば、複数回に分けて利用することもできます。
という使い方なら、合計20万円の範囲内です。
「今はトイレだけ直したい」
という場合でも、将来必要になる改修を考えて、計画的に利用することが大切です。
第3章 どんな工事が対象になるの?
介護保険で対象となる住宅改修は、何でもいいわけではありません。
厚生労働省が定める主な対象は、次の6種類です。
① 手すりの取り付け
廊下、トイレ、浴室、玄関などに、転倒防止や移動・立ち上がりを助けるための手すりを設置する工事です。
例えば、
「トイレから立ち上がるときにつかまる場所がない」
という場合です。
壁に手すりを取り付けるための下地補強など、必要な付帯工事も対象となる場合があります。
② 段差の解消
部屋と廊下、浴室、玄関などの段差をなくすための工事です。
例えば、
などがあります。
「このくらいの段差なら大丈夫」と思っていても、足が上がりにくくなると危険な場所になります。
③ 滑りにくい床材への変更
浴室など、滑りやすい場所の床材を変更する工事です。
また、居室の床を畳から板製床材などに変更するケースも、一定の条件で対象となります。
ただ単に「新しい床にしたい」という理由ではなく、介護上の必要性が認められることが重要です。
④ 引き戸などへの扉の取り替え
開き戸を引き戸などに変更する工事です。
例えば、車いすを利用するようになった場合、開き戸では出入りが難しいことがあります。
ドアノブの変更や戸車の設置なども、一定の条件で対象となります。
⑤ 洋式便器などへの取り替え
和式便器から洋式便器への取り替えなどです。
膝や腰に負担がかかり、和式便器の利用が難しくなった場合などが考えられます。
ただし、既に洋式便器があるからといって、単純に最新式の便器へ交換する費用がすべて対象になるわけではありません。
介護保険の対象になる部分と、対象外になる部分を分けて考える必要があります。
⑥ それらの工事に付帯して必要となる工事
手すりを取り付けるための壁の補強など、対象となる住宅改修に伴って必要になる工事です。
ただし、住宅全体を大規模にリフォームする費用が対象になるわけではありません。
ここは非常に重要です。
第4章 「家をリフォームしたい」だけでは使えません
住宅改修費について、一番勘違いしやすいところです。
介護保険だからといって、
という理由だけで利用できるわけではありません。
介護保険の住宅改修には、
本人の身体状況や住宅の状況から見て、その改修が必要であること
が重要になります。
例えば、
「トイレが古いから新しくしたい」
だけでは介護保険の対象とは限りません。
一方、
「足腰が弱くなり、和式便器から立ち上がることが難しい」
という身体状況があり、そのために洋式便器への変更が必要だと認められれば、対象になる可能性があります。
つまり、
「新しくしたい」ではなく、「介護生活を続けるために必要」
という視点が大切なのです。
第5章 最大の注意点は「工事前」です
住宅改修を利用するとき、ぜひ覚えておいてほしい言葉があります。
介護保険の住宅改修では、原則として工事を始める前に、市区町村へ必要な書類を提出します。
厚生労働省の資料でも、住宅改修を行う際には、必要な書類を添えて事前に申請し、工事完成後に領収書などを提出して保険給付を受ける流れが示されています。
さらに介護保険法施行規則では、住宅改修を行おうとするときに、改修内容や箇所、費用の見積もりなどを記載した書類を提出することが定められています。
まず、
ケアマネジャーや市区町村の介護保険窓口に相談する。
これが基本です。
第6章 住宅改修をするときの基本的な流れ
では、実際にはどうすればいいのでしょうか。
大まかな流れを見てみましょう。
STEP1 困っている場所を整理する
まず、自宅の中で困っている場所を確認します。
STEP2 ケアマネジャーなどに相談する
要介護・要支援認定を受けている場合は、担当のケアマネジャーなどに相談します。
まだ介護サービスを利用していない場合は、市区町村の介護保険窓口などに相談します。
STEP3 住宅改修の必要性を確認する
本人の身体状況と住宅の状態を確認し、
「なぜ、この工事が必要なのか」
を整理します。
STEP4 見積もりを取る
住宅改修業者などから見積もりを取ります。
このとき、
「介護保険の対象になる部分」
「対象にならない部分」
を分けて確認することが重要です。
STEP5 工事前に市区町村へ申請
必要書類をそろえて、市区町村へ申請します。
厚生労働省の通知では、工事前の申請において、住宅改修の予定状態を写真や図などで示すことも求められています。
STEP6 承認後に工事
事前の確認を受けたうえで工事を行います。
STEP7 工事完了後に必要書類を提出
工事が終わったら、
・領収書
・工事費内訳書
・完成後の状態を確認できる書類
などを提出します。
厚生労働省の通知でも、完成後の確認や領収証、工事費内訳書などについて定められています。
第7章 20万円を「一気に使わない」という考え方
年金生活者にとって、これは意外と大事なポイントです。
住宅改修の限度額20万円があるからといって、
「せっかくだから20万円全部使おう」
と考える必要はありません。
むしろ、
本当に必要な場所から少しずつ改修する
という考え方もできます。
というように、必要な場所を優先していく方法です。
もちろん、実際の工事費や対象範囲は住宅の状況や自治体の判断などによって変わります。
また、限度額の残りがあるからといって、介護保険の対象外となる工事を無理に追加できるわけではありません。
大切なのは、
「20万円使い切る」ことではなく、「転倒や生活上の困りごとを減らす」こと
です。
第8章 賃貸住宅に住んでいる人はどうする?
ここも年金生活者には重要です。
「自分の家ではないから、住宅改修はできないのでは?」
と思う人もいるでしょう。
賃貸住宅の場合には、所有者との関係があります。
そのため、勝手に手すりを取り付けたり、床を変更したりするのではなく、まず貸主・所有者への確認が必要です。
介護保険の住宅改修についても、住宅の状況や所有関係などを確認する必要があります。
特に賃貸住宅では、
「介護保険の対象になるか」
と
「大家さん・管理者から工事の承諾を得られるか」
は別々に確認する必要があります。
「介護保険が使えるから工事していい」
とは限りません。
ここは必ず事前に確認しましょう。
第9章 東京都・神奈川県に住んでいる人は、さらに確認を
このシリーズでは、全国共通の制度だけでなく、東京都・神奈川県など地域の制度も確認していきます。
東京都では、2026年度の「住宅改善事業」について、介護保険法が適用されない住宅改修について、区市町村が助成する場合があることを案内しています。
ただし、この制度は東京都が都民へ直接一律に補助するものではありません。
実施の有無や内容は区市町村によって異なります。
つまり東京都に住んでいる人なら、
「介護保険の住宅改修費だけを確認して終わり」
ではなく、
「住んでいる区市町村独自の住宅改修助成も確認する」
ことが大切です。
一方、神奈川県も住宅改修について案内しており、県のホームページでは介護保険制度による住宅改修費支給の概要を紹介しています。
また、神奈川県は2026年7月に県内市町村別の介護保険窓口一覧を更新しています。
住宅改修について相談できる窓口も市町村別に掲載されています。
ここでも、
「県に電話すれば全部やってくれる」
ということではありません。
実際の申請や給付については、お住まいの市区町村の介護保険担当窓口へ確認するのが基本です。
第10章 「転ばない家」を作ることは生活防衛になる
私は、この住宅改修制度を「介護のお金を節約する制度」というだけで考えないほうがいいと思っています。
むしろ、
これからの生活を守るための制度
と考えたほうがいいでしょう。
例えば、家の中で転倒して骨折したとします。
↓
リハビリが必要になる。
↓
退院後、一人で生活することが難しくなる。
↓
介護サービスが必要になる。
そんな可能性もあります。
もちろん、住宅改修をしたから絶対に転ばないという保証はありません。
しかし、
「危ないと感じている場所を放置しない」
ことには意味があります。
「トイレから立ち上がるのが少し楽になった」
「玄関の上り下りが怖くなくなった」
ということもあります。
住宅改修は、家を豪華にするためのものではありません。
自分でできることを、できるだけ長く続けるための工夫
なのです。
第11章 年金生活者こそ「早めの相談」を
年金暮らしでは、
「まだ歩けるから大丈夫」
「もう少し悪くなってから考えよう」
となりがちです。
私も、この気持ちはよく分かります。
何でもお金がかかる時代ですから、
「今は困っていないのに、工事なんて……」
と思ってしまいます。
でも、家の中で、
「最近、ここはちょっと怖いな」
と感じる場所が出てきたら、それは一つのサインかもしれません。
転んでから考えるのではなく、
これが大切です。
介護保険の住宅改修は、必要性が認められれば、自己負担を抑えながら住環境を改善できる可能性があります。
だからこそ、
「介護が必要になってから」
ではなく、
「少し不安を感じ始めた段階」
で制度を調べておくことをおすすめします。
第12章 住宅改修で失敗しないための5つのポイント
最後に、今回の話を5つにまとめます。
1.工事前に相談する
これが一番重要です。
先に工事を始めない。
まず市区町村やケアマネジャーなどに相談します。
2.20万円=20万円もらえる、ではない
支給限度基準額は20万円です。
自己負担割合に応じて、保険給付額が変わります。
3.対象工事を確認する
手すり、段差解消、床材変更、扉の取り替え、洋式便器への取り替えなど、対象となる工事には一定の範囲があります。
4.見積書をよく確認する
介護保険の対象になる部分と対象外の部分を分けて確認しましょう。
5.自治体独自の制度も調べる
東京都では区市町村ごとに住宅改善事業の実施状況が異なります。
神奈川県でも市町村ごとの相談窓口があります。
「介護保険+自治体独自制度」
という二段構えで調べることが、生活防衛につながります。
アッケの一言
年を取ってくると、若いころには何とも思わなかったものが、だんだん怖くなってきます。
その代表が、家の中の段差です。
私たちは長年、「このくらい大丈夫」と思って生活してきました。
でも、身体は少しずつ変わります。
だから私は、
「転んでから直す」のではなく、「転ぶ前に直す」
という考え方が大切だと思っています。
介護保険には、知らなければ使えない制度がたくさんあります。
住宅改修費もその一つです。
20万円という支給限度基準額がありますが、全部を一度に使う必要はありません。
まず自分の家を見回してみてください。
「この段差はちょっと危ないな」
そんな場所がありませんか?
もしあれば、工事業者にいきなり頼むのではなく、まず介護保険の窓口やケアマネジャーに相談してみましょう。
知らないことで損をしない。
それが、この「年金生活防衛シリーズ」の基本です。
次回予告
次回は、
「介護保険の福祉用具貸与・購入とは?知らないと損する使い方」
を取り上げます。
車いす、介護ベッド、歩行器、手すり、入浴用いすなど、介護保険には「買う」のではなく「借りる」ことで負担を抑えられる福祉用具があります。
住宅改修と福祉用具を上手に組み合わせれば、住み慣れた家で暮らし続けるための選択肢が広がります。
次回も、年金生活者の目線から分かりやすく解説します。
参考にした公的情報
・厚生労働省「福祉用具・住宅改修」
・厚生労働省「介護保険法」
・厚生労働省「居宅介護住宅改修費及び介護予防住宅改修費の支給について」
・厚生労働省「居宅介護住宅改修費支給限度基準額及び介護予防住宅改修費支給限度基準額」
・東京都福祉局「介護保険制度の住宅改修関係」
・東京都福祉局「住宅改善事業(バリアフリー化等)区市町村別事業概要一覧」
・神奈川県「介護サービスを受けるには」
・神奈川県「県内市町村別 介護保険窓口一覧」


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